わたしは一生に一度の恋をしました
「わたしはお墓の掃除をしに来たのよ。ほのかちゃんはお母さんをお墓に入れるために来たの?」

 わたしは千恵子さんの言葉に頷いた。
 お墓に目を向けた。お墓には塵が被っていた。

「そうだったんですけど、掃除もしようかな」
「だったら、わたしが手伝ってあげる。その花を崩さないほうがいいでしょう」

 千恵子さんはそういうと、手際よく掃除してくれた。

「でも、桔梗は珍しいわね。おばさんはいつも菊の花だから」
「お母さんの好きな花だったんです。今日くらいはお母さんの好きな花でもいいかなと思って、わがままを言いました」
「そうだったの。千明は桔梗が好きだったのね」

 千恵子さんは意外そうな顔をした。
 彼女が知らなくても当然だ。おばあちゃんもお母さんが桔梗が好きだったということを知らないようだったからだ。そもそも好きな花の話など家族でもなかなかしないだろう。

 千恵子さんは手際よく、あっという間に綺麗にしてくれた。そして、桔梗の花を挿した。
 わたしは千恵子さんと目を合わせると、微笑んだ。

「ここの生活はどう? 少しは慣れた?」

 その言葉に真っ先に花火大会のことを思い出した。見知らぬ二人と一緒に花火を見て、家まで送ってもらった。その人はわたしのことを知っているようだった。だが、千恵子さんにもにもそのことは伏せておくことにした。余計な心配をかけさせないためだ。

「街灯が少ないのがびっくりしたけど、静かで良いところですね。あと、蛍がいるなんてびっくりしました。もっと希少な生き物だと思っていたもの」

 わたしの言葉に千恵子さんは笑みを浮かべていた。

「この辺りは水が綺麗らしくて、毎年蛍が見られるわよ。昔に比べるとずいぶん少なくなったけどね」

「そうなんですね」

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