物語はどこまでも!
「私は、強くなりたいっ!」
鯨の顎が地面を食らう。
野々花ごと丸呑むはずが、彼女はもう大地には立っていなかった。
飛躍する己を体現するかのように、太陽を背にする彼女。的(複眼)が自分からやってきたと、先と同じ要領で複眼に刃を突き刺す。
今度は素早く射程圏から安全圏へ離脱するつもりであり、正に彼女はそれを成してみたがーー予想に反することが起きた。
「ぐっ!」
強敵を前にした高揚が一気に苦悶に変わったのは、捕らえられてしまったからだ。
「“手”だと……!」
頭と尾しかない寸胴の体より伸びてきたのは、五指のついた手の平。もっと言えば、手首、肘、二の腕までついた人間の腕そのものだった。
野々花の体を一掴みで捕らえてしまう腕は、彼女を握りつぶすのではなく無造作にーーゴミでも捨てるかのように振られる。
「がっ、あが!」
壁に叩きつけられた瞬間、血のあぶくが口より吐き出される。際限なく溢れるあぶくで、喉が内側より絞めつけられているようだ。嗚咽を出し、無理矢理にでも吐き出す。体を上下させるだけでも気絶しそうな激痛が走った。意識を失いそうになるも、痛みにより引き戻される。
「く、ふふっ……」
零れた笑いは何に当てたものだったか、彼女すら分からない。
勝てる見込みがない相手に挑めた喜びからか、最初から勝利者が決まっていた博打に挑んだ自身の阿呆さ加減からか、それとも。
「ここで、おわ、るか……」
“戦って、負けて、死ぬ”
「ああ、今の時代では到底ーー」
頭に並べられた言葉が、自分がどこか夢見た死因だったからか。
強さを追い求めた結果(なれの果て)には相応しい、在り方(死に方)だと思った。
「クク、それでは悔しいものだ」
負けたままではいられない。
“戦って、死ぬ”
それこそが武人らしいと、野々花は欠けた刃を手に取る。投げ捨てられようとも握り続けていたものだった。いざや、と向かう体ではなくとも、切っ先を相手に向けることは出来た。
「表が駄目ならば、内側だ。腸を掻っ切り、這いずり出てやろう」
その手は、刃が皮膚を通らない時から考えてはいた。もっと言えば、六つの複眼を潰したところで、あれは死に絶えることはないのも頭にあった。
人が多くいる外に行かせないがための打開策であったが、出来ないのならば最終手段となる。