物語はどこまでも!

“もう、大丈夫じゃないあなたを置いていきませんよ”

「……」

呑まれそうになった意識が、たった一言で引き上げられる。

我ながら、愚かしい。弱っているせいかと、前髪をたくしあげ、苦笑してみた。

予期せぬことに虫は焦ったか、先と同じ呪詛を吐くも、呪い返しのように彼は同じく言葉を紡いだ。


「行かない」

はっきりと、明確に。真っ正面から、否定する。

「世界を違えたならば引き離されるのも致し方がない。それでも彼女は会いに来てくれる。部外者だ、綺麗な輪を乱す部外者は独りっきりがお似合いだが、なぜだかみんな迎えてくれる。ここにいるのも嫌になるほどお節介な奴らばかりだ。うっかり消し炭にしたくなっても、そんなことをすれば彼女のもとへは行けない。

彼女への愛と比較すればどんな犠牲は些細でしかないのに、どんなものよりも美しい彼女の笑顔が消えてしまうのが分かっているから出来るわけがない」

虫はもう、話すことをやめた。
諦めたかのように彼の手のひらの中に収まる。


「いつも、期待しているんだ。愛する彼女は必ず、俺のもとに来てくれると」

手のひらで潰したのは虫だけでなく、自身の愚かしい心ごとか。ーー彼女もまた、俺がここにいてくれると信じているのに。

「どちらがヒロインだか」

想い人を待ち続けるさまはそうに違いない。ああ、だからーー彼女が来たときはどんな王子にも負けない甘く蕩けるような告白をして出迎えるんだ。

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