物語はどこまでも!
「……え?」
ウィルの名呼びに虚をつかれた。
彼が私の名を呼んでいたのだ。ウィルがそれを知るのも不思議ではない。
けれど、その音。初対面ではない、まるで昔から知っていたような。
思えば、このウィルという青年は彼のことも『セーレ』と呼んでいた。絵本の住人たちは皆総じて彼を『聖霊さん』と呼んでいるのに対して。ウィルと彼はそれだけ親しい仲で名前を教え合っているにせよ、どうにもそれだけじゃない気がして。
「いい加減にしろ、ウィル。その子供をこちらに渡せ」
考える頭を遮るように彼の言葉が耳に入った。
「いい加減にしてほしいのは君の方だよ。何度言ったら分かるんだ。返してほしかったら、僕の願いを叶えてほしい」
彼が舌打ちをする。私が来る前から彼らは話し合いーー取り引きをしていたのか。
あの少女が交換材料と言っていた。言うなれば、人質。
先の言葉を辿れば、セーレさんだけでなく図書館(私たち)にも関わる取り引きではあるが。
「いったい、何が望みなんですか」
枯れ木が笑う(軋む)。
三日月の唇はただ一言。