物語はどこまでも!

「ありがとう、セーレ!」

感極まったウィルの声。
その声は湖に出来た深い穴へ風と共に吸い込まれるようだった。

ざわめく黒い怪物たち。押し合いながら我先にと行くその前に、彼がーー

「……え」

私の体を突き飛ばす。

宙に浮く体の背後に何があるかなんて、考えるまでもない。

私に見向きもせず、怪物の群れに立ち向かう彼の背中はどこまでも雄々しいはずなのに。


「なんで……」

どうして、

「あなたはーー」

泣きたくなってしまうのか。

彼の名を呼ぶ。
私の名は呼ばれない。

ただ。

「逃げろ!」

最後まで彼は、私のことだけを考えてくれていた。

自分のことは後回しにして、本当は彼が一番。

< 88 / 141 >

この作品をシェア

pagetop