物語はどこまでも!
(四)
産声のような悲鳴を上げた気がした。
取り乱したはずの体が、何かに抱きしめられる。
「落ち着け、雪木!ここは現実だ!」
自身の呼吸の音で鼓膜が震える最中、聞き覚えある女性の声。
「のの、か……」
「そうだよ、落ち着いたか」
私の瞳をじっと見つめる顔はいつもの余裕ある笑顔ではない。ひとしきり私の様子を窺って、大きく息を吐いた。
「あと五分経っても起きなければ、私が行くところだったぞ」
目尻に涙が溜まる手前、指先で拭う野々花。そこにあったのは、司書(幹部)としての顔だった。
「報告しろ、司書補統括彩坂雪木。あちらの世界で何が何でもあった」
「あ、の……」
「お前が救助に向かった少女は無事に帰還した。今は病院へ運ばれているころだろう。大事にあった少女に事情を聞くわけにも行くまい。こちらは相も変わらず、そちらの状況をモニター出来なかったからな。目覚めたばかりで苦しいと思うが、報告を願おう」
「ノノカ、それは不適切な説明でありまする!目覚めた少女にいち早く雪木殿の安否を無理させてでも聞き出そうとして、周りの精鋭(スタッフ)たちに止められていたではないですか!ノノカはとても友思いの優しき御仁でありまする!某としてはそんなノノカを尊ぶのでありまーーはわ!」
マサムネの横やりに抱きしめで口封じする野々花。こちらもこちらで大変だったらしい。
「報告しろ」
なおも司書としての姿勢を崩さない野々花に事をあらましを説明ーーとは言ってもきちんと出来た自信がない。
無理に返されたせいなのか、めまいがひどい。呂律もあまり回ってないし、何よりーー
「彼のところに、行けなければーー!」
今こうしている間にも彼は『そそのかし』たちを止めているはずなんだ。
最後に見た背中が焼き付いて離れない。
「い、っ……!」
そうして、時折出てくる“見に覚えない映像”。頭の中をグチャグチャにかき混ぜられた気分だった。深海に眠って何かごと引きずり出されてしまったような気分。
吐き気を呑み込みながら、本を手にしようとするが野々花に止められた。
「彼は最後に、『逃げろ』と言ったのだな」
「だからって、彼を一人には出来ませ……!」
二の句が継げなかったのは、野々花に無理やり立たせられたからだった。
何かを言う前に先に、彼女は大きく息を吸い。