物語はどこまでも!

「総員、今すぐ退避せよっ!」


リーディングルーム全体に響き渡る命令を下した。

皆(スタッフ)が一様にして、野々花を見る。どよめきすらもかき消す声は尚も続いた。

「草木の聖霊たちよ、緊急事態だ!これは訓練ではない!マニュアルに従い、本防衛の陣を取れ!」

緊急事態のマニュアルなど、恐らくはこの図書館が創設されてから一度も役立つことなくある紙面上の言葉でしかないが、スタッフだけでなくリーディングルームに生える草木ーー緑の聖霊たちの頭にはしっかりと入っているようだった。

草木が伸び本棚を覆う。更に上から膨れ上がった大木がその守りを頑強としている。先ほどまで日差しが似合う草原が一気に鬱蒼とした密林早変わりした後、野々花は帯刀していた刀を一本抜刀した。

「精鋭たちよ、二度告ぐ!外に出ろ!そうして、この図書館の敷地から一歩でも遠くへ行け!私が緊急事態の発令をした時点で、外より援軍が来るはずだ!お前たちはただひたすらに走るが良い!」

行け!と、刀の切っ先が出口へ向く。どよめきが焦燥の悲鳴になっていくも、まだ何も起きていない。だからこそ、スタッフたちは逃げることが出来た。焦燥しながらも、我先にと逃げることなく周りの状況を確認しつつ、確実に一人一人リーディングルームから脱出していく。

問題はーー

「お前もだ、雪木!あとは私や、これから来るものたちに任せればいい!」

女性とは思えない剛腕に引っ張られようとも動かない私だった。

いや、正確にはずるずると引きずられてはいるけど、ある一定以上の距離から野々花は動こうとしない。

「マサムネっ、雪木を連れて行け!」

「ま、まって、お待ち下さい、ノノカ!いったい何が起こるーー何が“来る”でありまするか!」

無造作に私を突き放す野々花はーー先ほどの焼き回しを見ているようだった。

他を逃がし、たった一人で危険に立ち向かおうとする人の先には。

「怪物が、来るぞ」

瞬間、耳をつんざく叫び声。

同時、散り散りになった一冊の本。

刹那、血臭漂う黒い異形たちの出現。

「あ、ああああおおおぉ!」

この世のものでは有り得ない怪物が、襲いかかってきた。

まさしく文字通りに。叫びついでに開けた大口、人の口腔と同じ歯と舌を備えたものが、野々花を頭から丸呑みにしようとする。

< 91 / 141 >

この作品をシェア

pagetop