君と、ゆびきり
先生たちは歌っているけれど、新入生たちはそれを聞いているだけだ。


校歌を知らないのだから、それが当然の光景だった。


それなのに……。


あたしはひどいメマイを感じて俯いた。


こめかみを押さえ、足元を見ると自分の足が何重にもダブって見えた。


メマイと同時に吐き気が込み上げて来て口もとを押さえる。


聞いたことがないはずの、聞き覚えのある校歌が頭の中で反響している。


ふいにあたりが静かになった。


メマイが遠ざかり、あたしは顔を上げる。


さっきまでいたはずの体育館が、そこにはなかった。


ただ真っ白な空間があり、その中に真っ赤なワンピースを着たチアキが立っていた。


あたしはその姿にホッとため息を吐き出した。


「チアキ……。あたしはまた忘れていたの?」


そう質問すると、チアキは呆れたような表情を浮かべて「そうだよ」と、頷いた。


「えっと……これで何度目だっけ?」


「150回目。いい加減、中学の入学式も飽きてきたでしょ?」


そう言われて、あたしは小さく笑った。


あたしはどうしても、何度も何度も忘れてしまうのだ。
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