イジワル社長は溺愛旦那様!?
夕妃はうん、と相槌を打つだけで、それ以上何も聞かなかった。
ただ、疲れたという湊が休めるだけの時間と場所を作るだけだ。
だが肩の上の湊はそれで満足しているのか、リラックスした様子で夕妃の手もとを見つめている。
静かな部屋で、音はほとんどしない。
そうやって、しばらくの間夕妃は編み物をしていたのだが、ふとした瞬間に、肩に頭を乗せていた湊がずっしりと重くなったのに気が付いて、手を停めた。
横目でちらりと見れば、湊は目を閉じており、胸のあたりが上下に動いていた。
(寝てる……)
夕妃は湊を起こさないように手元の毛糸をサイドボードに置いてあるカゴの中にいれ、それから湊の頭を抱きかかえるようにして、膝の上に乗せる。
眼鏡を外し、そしてさらさらの黒髪をすくようにして、指を滑らせた。
「お疲れさま、湊さん……」
秘書として湊の仕事を見ているからこそ、社内の空気も、おそらく湊が抱えている日々の重圧も目に見えて感じることができる。
だが知っているからこそ、あえて過剰に反応しないように心がけていた。
上司と秘書のオンとオフを、ごっちゃにしない。
(ただ私はそばにいることしかできないけれど……)
そういえば、あのときも――。
ふと、半年前のことを思い出していた。