イジワル社長は溺愛旦那様!?

モデルとの食事の穴埋めに呼ばれるとは思わなかった夕妃は目を丸くした。


「――お誘いありがとうございます。でも、いけません。ほかの人を誘ってあげてください」


ペコッと頭を下げて、そのままスタスタと会議室のドアへと向かう。

確かに予約のとれないレストランなんて行ったことはないけれど、夕妃にはいつもお腹を空かせた朝陽がいるのだ。
自分一人贅沢するなど言語道断である。


「えっ、三谷さんっ?」


その反応が予想外だったのか、桜庭が慌てたように追いかけてきて、夕妃の手首をつかむ。


「ちょっと待ってよ、三ツ星レストランの“バスチアン”だよ、行かないとかないでしょ!」


バスチアンは恵比寿にある高級フレンチだ。
夕妃だってその名前くらい聞いたことがある。一年先まで予約がいっぱいだとテレビで見たことがあった。


(バスチアン……それはすごいなぁ……)


素直に感心して、それからゆっくりとつかまれた手首を離す。


「だったら余計、ほかのひとを誘ったほうがいいと思います。私、そういうところは少し緊張しますから……仕事に戻りますね」


夕妃は会釈して、会議室を出た。


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