イジワル社長は溺愛旦那様!?
(びっくりした……)
途中、会議に出る社員たちとすれ違った。
「お疲れ様です」
そう言いながらデスクに戻ると、夕妃の背後の席に座っている同じ事務員の首藤亜美(しゅどうあみ)が、椅子に座ったままゴーッと体ごと近づいてきて、夕妃の耳元に顔を寄せた。
「夕ちゃん先輩、大丈夫でしたっ?」
夕妃のことを夕ちゃん先輩と呼ぶ亜美は、高卒で入社した二年目の事務員の女の子である。
今どきの女の子というか、元ヤンで現在ギャル寄りだが、派手な見た目からは想像しづらい、まじめで気のいい後輩だ。
「大丈夫って?」
「いやいや。あたし調査済っすから。あの桜庭って、ちょーーー女癖悪いんですって」
「どこからそんなの聞いてきたの?」
既に調査済という言葉がおかしくて、夕妃は笑う。
すると亜美は椅子からいったん立ち上がって、周囲が会議に出て不在なのを確認したようだ。
唇を子供のように尖らせて、夕妃に詰め寄った。
「もちろん本社っすよー。桜庭、本社の偉い人の息子なんですって。っていうか、本社の社長の親戚?とか言ってましたよ」
「へぇ~」
夕妃が務める事務用品通販会社の親会社は、大手の事務用品メーカーである。
社長の親戚筋なら、若いうちは関連企業のあちこちで修行して、ある程度の年齢になったら本社に戻り、それなりの役職につくことが決まっているに違いない。
「で、ちょっとイケメンだからって、あちこちで女食いまくってるって噂っす」