イジワル社長は溺愛旦那様!?
一日の業務を終え、ロッカーで私服に着替えて事務所が入っているビルを出る。
桜庭は出口で待っていた。
「お疲れ様です」
「車、待たせてるから」
夕妃の顔を見て駆け寄ってくると、待たせていたタクシーへ夕妃を乗せた。
連れていかれた先は、新宿にある隠れ家風なレストランで、雰囲気も良く、料理は美味しかったが、ゆっくり食事を楽しむというよりも、慌ただしく時間が過ぎたような気がした。
会話は主に桜庭のことで、名門小学校からのエスカレーター式で大学を卒業して、同窓生には著名人の子弟が多く、ちょっとしたパーティーで休日はすべて埋まっていること、広告代理店に勤めている友人の誘いで、船上パーティーにいき、そこに誰でも知っている国民的シンガーがいて、贅沢なコンサートが開かれたこと、など、普段の夕妃の生活とはまるでかけ離れている、別世界の話だった。
もちろんそこには共感もなく、ただ『こういう人もいるんだなぁ』というだけだ。
桜庭はただ、自分に自慢したいだけなのだ。
夕妃はそう判断するしかない。
「――これ、私のぶんです」
夕妃はレストランを出てから、財布を取り出し一万円札を抜いて差し出す。
この一万円があったら朝陽くんにたくさん美味しいものを食べさせてあげられるのに、と思わないでもないが、とりあえず一度食事に付き合ったのだから、これでいいだろう。