イジワル社長は溺愛旦那様!?

自分が大変だとばかり思っていたが、どう考えても、湊のほうがずっと大変ではないか。

エールマーケティングの社長としての実務をこなしながら、夕妃の指導までしているのだから。


(こんなことで甘えるのは駄目だ……いや、湊さんは甘えていいって言ってくれるけど、こういうのは甘えるとは言わない。ただの甘ったれだ。)


夕妃はぎゅっと唇をかみしめて、そーっと後ずさりながら、ドアを閉めようとした。
だがその瞬間、ふと顔を上げた湊と、ばっちり目があった。


「夕妃?」
「あっ……」


見つかってしまったと、夕妃は目を大きく見開く。

慌ててプルプルと顔を横に振った。


「ご、ごめんなさい、あの、その、えっと、ちょっとおやすみなさいって言おうと思ってそれだけで!」
「何も言わずにドアを閉めているところだったようだけど」
「っ……」


湊は硬直する夕妃を見て、クスッと笑うと、眼鏡をかけなおし、手を差し出した。


「おいで」
「で、でも……」


おいでと言われたら胸がはずむ。

あのまま彼に抱きしめられたら、どんなに幸せだろう。


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