イジワル社長は溺愛旦那様!?
夕妃は短大卒業後、別の企業でOLをしていたのだが、半年前からエールマーケティングの社長秘書として派遣され、働き始めた。
ちなみにエールマーケティングは、日本有数の化粧品会社であるエール化粧品の関連企業であり、社長の神尾湊は、もともとエール化粧品役員の秘書をしていたらしい。
そして今から約一年前、新しい会社設立の際に社長として抜擢されたのだとか。
確かに仕事上の神尾は厳しいが、やりがいもある。
「三谷さん!」
エレベーターに乗り込んで階下まで降り、エントランスホールから足早に出口に向かっていると、誰かが夕妃の名字を呼ぶ。
別のエレベーターから降りてきた、スーツ姿の若い男が走って夕妃に近づいてきた。
「澄川さん、お疲れ様です」
夕妃はぺこっと頭を下げた。
澄川はエールマーケティングの営業マンだ。秘書室とはフロアは違うが、二十四歳で同い年なせいか、夕妃に気安く声を掛けてくる。
「今帰り? 遅いね」
「うん、少し仕事が残ってしまって」
夕妃が歩き始めると、澄川が一歩先の隣を歩く。