こいつ、俺の嫁。
名前を呼べばあたしを抱き締める腕に力が入る。
「…遅ぇよ……バカ澪」
「ごめん。ほんと間に合ってよかった」
「……」
流れる沈黙。
でもそれは苦痛じゃなかった。
テツの胸の鼓動が段々ゆっくりになってきてると分かるから。
この一戦でインターハイの切符が手に入るか入らないかが決まる。
中学の時からずっと夢見てきたインターハイ。
きっと今までで一番不安で緊張してると思う。
「…肩はもう大丈夫なの?」
「…ん、…」
「そっか。……テツ」
「…ん?」
絶対に勝てるよ。
ここまで来れたんだから大丈夫。
なんて余計なことは言わない。
テツの右手を両手で包み込むようにして握り、優しく口付けを落とす。
そして拳を作った右手を差し出す。
「……迷わず、跳べ」
「…おう」
跳べばきっと勝利と言う景色は見えてくるはずだから。
あたしの拳とテツの拳がぶつかった時、試合が始まるホイッスルが聞こえた。