溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~
そう、とだけ言って、社長は黙って運転をしている。
デートをした時みたいに、鼻歌でも歌ってくれたら笑えるのに、至極冷静に真面目な顔でいられると、気を遣わせてしまっている申し訳なさを感じてしまう。
俯くと、着けたままの指輪がある。
桃園さんはどう思っただろう。記事を見ても外さずにいた私を、扱いやすい都合のいい女と、彼なりの高評価を下したのだろうか。
あぁ、悔しいな。あんな男のために浮かれたり切なくなったりして。傷付くことさえ悔しい。
なのに、思い出がえぐる。1秒でも早く忘れたいのに。
視界がゆらいで、涙が滲んできていると知った。人前で泣きたくないのに……。
「まだ泣くなよ?」
社長が私の自宅のほうへ車を走らせている。
泣くなら帰ってからにしろと言いたいのかもしれないけど、今日だけはまだ……。
深く息を吸って、声が震えないようにする。
泣いてなんかないと下唇を噛んで、車窓から満月を見上げた。