溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~
信号で立ち止まった通りに、渡った向こうが駅方面と示す標識を見つけた。
飲みに行きたくもないし、おとなしく帰るしかないかと、諦めのため息をもう1つ。
点滅しはじめた赤から視線を流すと、先頭で停まっている車の運転席にいる葛城社長と目が合った。
「なにしてるの?こんなところで」
「社長こそ」
「俺は会食の帰り」
そっか、そんな予定が入っていたなと思い出す。
「乗る?」
「結構です。駅が近いので電車で帰ります。ナンパみたいなことしないでください。いま誰かに見られたら一大事ですよ」
「いいから早く乗って。後続が来ちゃうとマズい」
急かされて、断れずに助手席に乗った。少し前に横浜に行った時をすぐに思い出せるのは、彼のドリンクホルダーに今日もミルクティーがあったからだ。
「まだ落ち込んでる?」
「そうですね」
「……例の件?」
「ええ。会ってきたんです。桃園さんと」