溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~
「またお誘いしますね。理由がなくては誘えない関係でもないでしょうから」
「……はい」
素直に次回の約束があることを受け止め、音もなく低く飛ぶように去る車を見送った。
帰宅して、部屋の明かりを点けて日常に溶け込もうと努める。
次のデートがいつなのか、それはまだ決まっていない。
だけど、宿題のような問いかけを渡されてしまった。
「好きな人、いるの?」
自宅マンションの前で停車していた時間、お礼と少しの雑談をしたその最後に、桃園社長がそう言ったのだ。
「今は……」
いないと答えるべきところだけれど、桃園社長を少しでも気に留めているというのは言わないほうがいいと思った。好きとは違う気持ちが強いから。
言葉を濁したままの私を真正面から見つめる黒い瞳は、煌めきが夜空のようだった。
桃園社長と目が合うと、呼吸すらままならない感覚に襲われる。力のある真剣なまなざしが、彼の望む答えを伝えていると感じた。
「正直に言って。奪うだけだから」
「今はいません」
「そう。じゃあ、遠慮なくデートができるね」
桃園社長の心の中を見せられたら、部屋の中にいる自分がこの世界のどこにも馴染めない気がしてならない。