王子、月が綺麗ですね
「ああ、女王命令だからと言われてな」

老人が王子を見上げ憂いを帯びた様子で話した。

「そんな……凛音、龍神の加護を受けた母上が湖を枯らすようなことを許すと思うか?」

王子が私の耳元で囁き訊ねた。

「女王の耳にダム建設の話が伝達されていたなら、湖はお守りになられるはずですし、村が干上がるようなことはお許しになられぬはずです」

「だよな……」

王子は首を捻り、済まなさそうに老人の手を優しく握った。

「申し訳ありません。手違いがあったようです。陛下へ、早急に手を打つよう申し伝えます」

王子は丁重に頭を下げた。

「皇族……葵王子かね?」

「はい」

「両陛下が此処へ寄越された真意をよく考えることじゃよ。この国をもっと広く深く知ることじゃ」

「ありがとうございます。肝に命じて」

「ん……そうじゃ、これを」
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