王子、月が綺麗ですね
老人が嗄れた手を広げ、薄汚れた綿の巾着袋を差し出した。

「これは?」

王子は巾着袋を開け中身を覗き、首を傾げる。

「麦じゃよ。この枯れた大地に再び、その麦を実らせてくだされ」

王子は深く頷き、巾着袋を懐に仕舞った。

老人と別れた後、村を歩き住人を探し歩き回ったが、誰にも会えなかった。

途方に暮れ、王子は「どこもかしこも廃墟だな」とポツリ零した。

陽が暮れ影が長くなり、空が茜に染まる頃には暑さも和らいだ。

王子はかつて、湖を臨んだ丘に立ち村全体を見渡した。

「凛音……俺は今まで何を観てきたんだろう。民の暮らし民の痛みを何も知らずに生きてきたのだな」

王子は唇を噛みしめた。

憂いを帯びた瞳が枯れ果てた大地をじっと見つめていた。
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