今夜、きみを迎えに行く。
店のなかには、わたしと彼が飲むココアの香りが漂っていた。
いるのはわたしと彼の二人だけ。
他には誰もいないし、誰も来ない。
結局、トミーさんはそのあと二時間も店に戻って来なかったから、わたしたちはお互いに、一杯ずつココアをおかわりして飲んだ。
彼は、わたしにどんどん質問をした。
「学校は楽しい?」
「好きな科目はある?」
「大切な友達はいるの?」
「好きな男の子はいるの?」
最後の質問にはなぜか少しどきっとしたけれど、わたしの答えはすべてノーだった。
わたしがぶっきらぼうにノーと答えても、彼は必ず、そのノーの理由をたずねてきた。
「どうして楽しくないの?」
「嫌いじゃない科目はあるだろ?」
「友達がいないなんて嘘だ。きみがそんな風に思っているなら、ぼくがきみの友達になる」
「いないの?…だけど、少し安心した。好きな男が出来るのは、まだまだもっと先でいいと思う」
やっぱり彼の受け答えはなんだか少し変なところがあって、それがちょっぴりおかしかった。
わたしはいつのまにか、彼のことを彼が望むとおりにシュウ、と呼び捨てにしていたし、彼はいつのまにかわたしのことをアオイと呼んでいた。
不思議なことに、ちっともそれが嫌だとは思わなかった。