今夜、きみを迎えに行く。




店のなかには、わたしと彼が飲むココアの香りが漂っていた。


いるのはわたしと彼の二人だけ。



他には誰もいないし、誰も来ない。



結局、トミーさんはそのあと二時間も店に戻って来なかったから、わたしたちはお互いに、一杯ずつココアをおかわりして飲んだ。



彼は、わたしにどんどん質問をした。



「学校は楽しい?」



「好きな科目はある?」



「大切な友達はいるの?」



「好きな男の子はいるの?」



最後の質問にはなぜか少しどきっとしたけれど、わたしの答えはすべてノーだった。

わたしがぶっきらぼうにノーと答えても、彼は必ず、そのノーの理由をたずねてきた。



「どうして楽しくないの?」



「嫌いじゃない科目はあるだろ?」



「友達がいないなんて嘘だ。きみがそんな風に思っているなら、ぼくがきみの友達になる」



「いないの?…だけど、少し安心した。好きな男が出来るのは、まだまだもっと先でいいと思う」



やっぱり彼の受け答えはなんだか少し変なところがあって、それがちょっぴりおかしかった。
わたしはいつのまにか、彼のことを彼が望むとおりにシュウ、と呼び捨てにしていたし、彼はいつのまにかわたしのことをアオイと呼んでいた。


不思議なことに、ちっともそれが嫌だとは思わなかった。





< 28 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop