今夜、きみを迎えに行く。
リビングに入ると、茜が母親の作ったシチューを食べているところだった。
「おかえりー葵。遅かったね、バイト?」
茜はいつも通り、爽やかな笑顔でいった。
茜はいつも同じ。わたしの機嫌が良くても悪くても、茜の態度は変わらない。
「帰ってきたなら、ただいまくらい言いなさいよ」
母親が、わたしのぶんのシチューをよそいながら言う。冷たい声。
さっきまで、あんなに笑っていたくせに。
「言ったよ。ただいまって」
「あらそう、聞こえなかった。バイトも良いけど、勉強はちゃんとしてるの?茜はしっかりクラブもして、勉強だって頑張ってるのよ」
母親の台詞にカチンと来る。
「茜がそんなに好きなら、茜をうちの子どもにすれば」
「…ちょっと、葵!」
茜がわたしと母親の間に割って入る。
それにさえ、腹が立って仕方がなかった。一度溢れてしまった言葉は止まらない。
「帰ってよ!いつもいつも茜ばっかり。ここは…わたしの家なのに…!」
「葵!あなたなんてこと言うの!」
母親が怒鳴った。ヒステリックに、泣きそうな声で。
茜が黙って部屋を出ていく。玄関のドアが開いて茜が家を出ていく音がする。
わたしはシチューに手を付けず、黙って二階の自分の部屋へ上がった。