今夜、きみを迎えに行く。
「…昨日、わたしが茜にあんなこと言ったから、お母さんはわたしを恨んでるんだと思う。今までずっと、毎日、わたしのことを迎えに来てくれてたのに、茜は今日、わたしを置いて先に学校に行っちゃったから。…来ないでって言ったのはわたしなのに、わたし、それがすごく寂しかった。放課後だって、いつも部活の前に顔を見に来てくれるのに、今日はわたし、一度も茜の顔を見てない。茜はね、遠くの大学に進学するみたいなの。わたし、なにも聞かされてなかった。幼なじみなのに、わたしには何も相談してくれなかった」
わたしの一方的でまとまりのない話も、シュウはうん、うん、と頷きながら聞いてくれていた。
シュウが頷いてくれるたびに、わたしは柔らかい毛布でくるまれているみたいな安心感を覚えていた。
なにもかも、受け入れてくれるあたたかい、ふわふわの寝床のような不思議なオーラがシュウにはあって、わたしはそこに、思いきりダイブしているような気持ちだった。
「このまま、茜とずっと離れちゃうのかと思ったら、すごくこわい。勝手だよね、ひどいこと言ったのはわたしなのに。お母さんだって、お父さんだって、こんなわたしのことなんて、嫌いになって当たり前だよ」
シュウはうん、うん、と聞いていた。ココアをゆっくり口に含む。
「ひとつひとつ、ゆっくり解決していこう」
とシュウは言った。
「まずは、アオイが自分から、幼なじみを迎えに行くところから」
「…わたしが、茜を迎えに行くの?」
「そうだよ」
なんでもない、当たり前のことみたいにシュウはいった。
まるで、寒い日はコートを着るんだよ、みたいにさりげなく。
「行ったことないよ」
そう、わたしはいつも、迎えに来てもらう側だった。小さい頃からずっと、変わらない習慣。しっかりしていてお姉さんみたいな茜がいつも、頼りないわたしを導いてくれていた。初めてランドセルを背負った日からずっと。
「だから行くんだよ。アオイの気持ちをちゃんと、伝えなきゃいけない。そして、相手に頼らずに、自分から相手のことをよく知ること」