今夜、きみを迎えに行く。



わたしが茜を迎えに行く。



そんなことを提案されるなんて思ってもみなかった。



バイトの帰り道、家にたどり着くまでの間もずっと、シュウの言った言葉の意味を頭の中で反芻していた。



「相手のことをよく知ること」



わたしは、茜のことを知らないのだろうか。



家に着くと母親と父親は出掛けていてどちらもいなかった。
昨日のこと、朝のこともあったから、両親がいないことにほっとする。


リビングのテーブルの上、「すぐ戻ります」と母親の書いたメモと一緒に晩ごはんが並べてあった。肉じゃがときゅうりの酢の物とサラダ、それに何かのフライとお味噌汁。



それをひとりで黙々と食べたあと、お風呂に入ろうとすると、奥の部屋、祖母の部屋から唸り声のような声が聞こえて来た。

驚いていそいで祖母の部屋へ向かう。



「おばあちゃん?どうしたの?大丈夫?」



「…いないのよー…おとうちゃんと、おかあちゃんがいないのよー…。さむいし、足がいたいのよー…」



ベッドに丸まって、赤ちゃんみたいな声でおばあちゃんはいった。

お父ちゃんとお母ちゃんは多分、おばあちゃんの両親、わたしのひいおじいちゃんとひいおばあちゃんのこと。
わたしの両親が家にいないことを、自分の親がいないこととごっちゃにしているのだろう。



「…おばあちゃん、大丈夫だよ。足、痛いの?お父さんとお母さん、すぐに帰ってくるからね」



おばあちゃんの手を握る。最近は、ご飯もあまり食べていないらしく、昔はふっくらとしていたおばあちゃんの手はすごく痩せて冷たくなっている。






< 45 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop