今夜、きみを迎えに行く。




5階でエレベーターを飛び降りる。ナースステーションで看護師さんに確認して部屋に向かう。



「おばあちゃん!」



扉を開けるとベッドに横たわる祖母と、隣の椅子に腰掛けている母親の姿。小さな病室。窓から外の景色がよく見える。



祖母は酸素マスクを付けて目を閉じている。動かないけれど、苦しそうな表情はしていない。だけどその姿は、昨日まで家のベッドに寝ていたおばあちゃんとはまるで違う人みたいだ。



「お母さん…、おばあちゃん、大丈夫なの…?」



おそるおそる聞くと、母親は疲れた顔を上げて小さく頷く。



「珍しく、自分で歩いて庭に行ったみたいでね。花壇の前で倒れちゃったの。検査はまた明日もあるみたいだけど、今は眠ってるだけよ」



「そう…なの?…おばあちゃん、治るの?」



「そうね、年齢が年齢だからね」



祖母は安心した表情で眠っている。
ひとりで歩いて庭に行ったのは、何のためだったんだろう。



「どうして花壇になんて行ったのかな…?何もないのに」



「さあね、なにか植えようと思ったのかしらね。おばあちゃん、それだけが趣味だったから」



母親が、困ったように少し笑った。
わたしは、祖母が花壇にいつも季節の花をたくさん植えていたことを思い出す。ほとんど歩けないはずの祖母が、わざわざひとりで歩いてそこまで行ったのは、やっぱり何かを植えるつもりだったのだろう。


< 95 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop