こっち向いて、ダーリン。【改訂版】
昼休みが終わっていたことに気づかないくらい、その話はわたしにとって衝撃的で、全てを聞き終えた頃にはご飯が乾いてしまっていた。

もちろん食欲なんて、とうの昔に消え去っていた。


深瀬くんが施設に捨てられていたこと。

知力が高い為だけに引き取られたこと。

素行が悪くなってから、知らないうちにお父さんが亡くなり、お母さんが精神を病んでしまったこと。

それを深瀬くんが自分のせいだと、いまだに自分を責めていること。

お母さんとの約束だから学校へちゃんと通っていること。

お母さんに見捨てられて一人暮らしをしていること。


胸がえぐられるように、わたしの心に深く深く刻まれた。


話を聞いただけでこれだけ胸が痛むのに、当事者の深瀬くんはどれほどの傷を負ったことだろう。

偽物じゃないと思って信じていた家族に突き放され、どれほどの孤独を感じていただろう。


それを誤魔化す為に、敢えてずっと一人でいたの?

人を拒んできたの?一人でいることを選んできたの?


いつも誰も寄せ付けないように、威嚇をするような目をしていたの?


──もしもそうなら、そうであったなら。


「──。」


深瀬くんの気持ちを思うと言葉がつまり、頬に涙がこぼれていた。
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