こっち向いて、ダーリン。【改訂版】
「退院したらお墓参りに行きましょうね。お父さん、圭悟を待ってるだろうから。そしていつか家に戻ってきてくれると嬉しいな」

「…そうだな…」


親父とは会わないまま別れちまった。今更だけど、ちゃんと別れの挨拶しねぇとな。


…墓参りか…。


思い返してみるとこんなことを母親と話せるのも逢川のお陰であって。

逢川が力ずくでこの場を作ってくれたからで。

大げさな話、逢川がいなければ、一生親父の墓参りに行けなかったかもしれない。

母親の真意を知らずに、ただ殻にこもって生きていたかもしれない。



今、見上げる空に色が付いているのも、呼吸をする度に感じていた息苦しさがいつの間にかなくなっていたのも、以前より孤独を感じなくなったのも、全ては逢川が始まりだった。


イラつく時間は日に日に減っていき、それ以外の感情が増えていく。

気づくと俺は自分を不幸だとあまり思わなくなっていた。

灰色の日常は様々な色で溢れていった。

世界はこれほどまでに色をなしていたのかと知り、荒んだ思考は薄れていった。


どれを取っても、どう考えても、原因はやっぱり逢川で。


逢川は俺の生きている上で欠かせない、重要な人間なんだと思い知らされる。
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