俺様社長の溺愛宣言
零士は驚いて、私をぎゅっと抱き締める。

「…本当にゴメン、泣くほど寂しかったんだな」

その言葉に首を降る。

確かに寂しかったけど、泣いてる理由はそれじゃない。

「…じゃあ、何で泣いてる?」

困惑気味に、零士が問う。

零士の言葉にハッとして、ごしごしと目を擦る。

が、その手を止められる。

「…そんなに擦るな、目が腫れる」
「…でも」

「…泣きすぎもよくないが、無理して止めるのはもっとよくない。落ち着くまでこうしててやるから」

ぎゅうと、私を包み込み背中を優しく撫でてくれる。

罵倒する事だって、突き放すことだって出来るのに、こうやって私を抱き締めてくれる零士は優しい人以外言葉が見つからない。

一馬の言葉は私を惑わすための嘘だと思う。

でも、一馬は本気で私と結婚しようとしてる。

父までもが、それを望んでいる。一馬なら、私を託せると信じて。

…私のこの行き場のない恋心は、どこにも吐き出せないまま、心の奥に仕舞わなければいけないだろうか?

誰にも言わなければ、誰も傷つけずにすむかもしれない。

…零士は、私でなくても、きっともっといい相手がいるかもしれない。

抱き締めてくれる零士の腕の中で、自分の心を決めた。

「…零士さん」
「…落ち着いたか?」

零士から少し体を離し、上を向き、微笑んで見せる。

「…零士さん」
「…ん?」

「…もう、ここには来ないでください」
「…何故?」

あからさまに驚きながら零士が言う。胸が張り裂けそうなほど苦しくなっても、笑顔を絶やさないようにした。


「…御崎社長が大嫌いになったから」
「…」


結婚するとはいえなくて、零士を傷つける言葉しか浮かばなかった。

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