俺様社長の溺愛宣言
社会人になってから、一度もこんなことはなかったのに。と、満里奈は思った。

会計を済ませ、処方箋で指示された薬をもらうと、ロビーで座って一馬を待った。

「…悪い、待たせたな」
「…ううん、今薬もらって座ったところだから」

そう言って立ち上がった満里奈の手を、一馬が優しく握る。

「…1人で歩けるよ」
「…満里奈の言葉は、信用出来ないって言っただろ?」

拒絶したいのに、出来ない満里奈。

体調を崩したときに、一馬がいつもこうやって手を握ってくれると安心できたから、離せなかった。

「…小林に聞いたよ。無理しすぎたんだな」
「…」

「…その原因は、あの男、だろうな」
「…」

…違うとは言い切れなかった。実際、零士に出会うまでは、毎日マイペースに毎日を過ごしてきたのだから。

それが今では、零士に振り回されて、マイペースな日常なんて無いに等しい。

間もなくして、満里奈のアパートに着いた。

「…ありがとう、お兄ちゃん」
「今夜は…いや、しばらくここに泊まるから」

「…え、そんな事までしなくても」
「…1人で、部屋の中で倒れたらどうする?」

「…」
「…満里奈、お前の心臓は、思った以上に良くない」

一馬の言葉に、満里奈は目を見開いた。

「…生まれつき心臓に持病を持ってるんだ。その為に俺は、医者になった…全ては満里奈、お前のために」

…満里奈はずっと、一馬は、父親と同じ医者になりたいからその道に進んだと思っていた。それは全然違った。

生まれつき持病を持っている満里奈。信頼のおける女子校に父は満里奈を通わせ、何かあれば、直ぐに駆けつけられるようにしていた。

それを見て育った一馬も、満里奈の為に、自分で出来る事を考えた結果が、医者になると言うことだった。
< 70 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop