ようこそ!きつねや漢方へ。
 ざわざわ、ざわざわ、と。色んな声が聞こえる。「どこのクラスだろう?」「うちのクラスなら良いな」など。大体みんな同じ内容が聞こえてくる。

 やはり誰しも『あの』転校生がどこのクラスか気になるのだろう。

「………へへ~ん!このうちのクラスなのだ~!」

と、誰も聞いていないだろうが一人自慢する。
 やはり私の勘は当たっていた。たぬきの長い話が終わり、誰もが一目散に講堂から出て行く。
 その様子を見ながら、私は一人、逆方向へと歩き出す。

「はぁ…、でもよりにもよって、今日、私が日直で、委員長がいなくて、でも転校生はいて、何かついてるようなついてないような……」

そんなことをぼやきながら歩いていると、前から大群が押し寄せてきた。

「わっ……とっ、たっ!」

避けようと、体を反らした。いや、反らそうとした。したのだが……

「えっへん!この私を誰だ……っ!ひゃぁっ」

「いてッ……たた……、あの?大丈夫か?」

反らしきれたと安心したのもつかの間、誰かと思いっきりぶつかってしまった。
その反動で私と相手が、同じに尻餅をつく。

そこにいたのは、さっき壇上で話していた男の子で。つまり、転校生という訳で……

「……てて……あっ!ごめんなさい!えっと、その!」

もの凄い勢いで立ち上がった。そして、そんな私を見て、フワッと笑う。あぁ、イケメンってこんな人を言うんだなぁ……。

「はは、君はまた騒がしいな?……よっと。今朝、八重と話してたよな?」

「あっ……やっぱり、八重さんの知り合いなんだ……。」

ポロっと口から出た言葉。言ってから思った。不謹慎かもしれないよね。

「あっ、ごm「やっぱりなっ!八重から貰った奴返せ!」……へっ?」

急に言われた言葉に呆然とする。えっ?今なんて言ったの?

「だぁかぁらぁ!!八重から貰った薬!冷え性の!あれ返せ!」

「……えっと、今持ってないんだけど……。何で?」

素朴な疑問を口にする。これは、八重さんから貰ったのだ。店主さんからだ。なのに返せ??

彼になんの権限があるの?別に返してもいいけど、理由を言われないと腑に落ちない。

「はぁ、なら教室に着いたら返してくれよ?あれ、違うお客さんに渡す奴だったんだ。多分八重が渡し間違えたの。」

あぁ、そう言うことか。彼は多分八重さんから頼まれたんだなぁ。間違えたから、と。勝手に解釈した。

彼は頭をかきながら、呟く。

「あいつ……勝手に漢方を人にあげんなっつうの!もし間違えたら、ぁあ、考えただけでも、怖い。」

何を言ったのか、声が小さすぎで聞こえなかったが、怖いと言ったことだけは分かる。いや、何が怖いのっ?!

「あっ、自己紹介してないな、さっきも言ったし知ってると思うけど……俺の名前は、東間 透。よろしくな?」

さっきとは違う笑顔で、妖しく微笑む。透くん

「あっ……私は美月、、美月 凛!気軽に凛とでも呼んで!」

透くんの笑顔に一瞬見惚れてしまった。何故か、、胸が煩い。

「あぁ、よろしくな!凛!!」

「うん!よろしく!透くん!」

そんなこんなで、最悪なような、見方にとっては運命とも言えるような不思議な出会い方をした、透くんと。






この夜に、この数時間後に、これ以上に不思議で、理解しがたい、非日常が彼の手によっていや、多分、自分の失態によって幕を開ける。





そんなことも知らずに、その時はただ呑気に彼との会話を楽しみながら教室に向かった。







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