ようこそ!きつねや漢方へ。

「ぎりぎりせーふっ!」

 時間ぎりぎりに教室へ着いた私。
 新しいお店を見つけた嬉しさと八重さんの笑顔で、時間が大幅に過ぎていたことに気づいた時はもう遅かった。
 ダッシュで、学校に来たが何やら様子がおかしい。教室に入ってみても人っ子一人いない。

「あれ?誰もいない何で?今日休みじゃないよね?」

「なにがセーフだ。アウトだよ。ア・ウ・ト。お前今日、日直だろ?しかも、今日の朝全校集会に変わったんだよ。転校生が来たから、その紹介」

パコっと教科書で頭を叩かれる。頭を抑えて見上げると………

 そこにいたのは、私たちの担任で学年主任の土谷恵次(つちやけいじ)。身長は180以上で、高圧的な雰囲気を漂わせているが、皆の人気者。ひょうきんな性格で髪は肩で乱雑に縛っていて、何か不思議な雰囲気を持ってる先生だ。

「いたーい!恵ちゃん先生酷いよ!」

「酷くて結構。普通なら廊下に立ってろって言う所だけど………日直だし早く体育館へ行きなさい。転校生うちのクラスだから、案内よろしく」

「えぇ~、そういうことは、委員長に言ってよ~!恵ちゃん先生!」

先生を睨むように言う。転校生の案内とか、面倒くさいに決まっている。

「岡村は今日風邪で欠席。38度以上の高熱だとよ、だから今日は日直の仕事沢山あるぞ~♪」

「オニ、アクマ!!人でなし~~!!」

 そういうと、ポンポンと頭を撫でられた。

「はいはい、俺はオニですよ~。と言うことで、よろしくな美月」

 そういって、先生は手をひらひらと振りながらどこかへ行ってしまった………。

「……とりあえず、体育館行かなきゃね……はぁ、いい事あるかもって思ったのに………」

 今日は八重さんにも出会えたし、薬も貰ってしまったし、いい事ありそうと思った自分がバカだった。いい事があった後は必ず悪い事があるのが人生だ。

 そんなことをグルグルと考えているうちに目的地に着いてしまった。

 中から話し声が聞こえる。そっとばれないように扉を開け中に入ると、ちょうど転校生を紹介する所だった。
 生徒はざわざわと「女の子かな?可愛かったらいいな~」とか「イケメンって噂だよ!」などの色んな声があちらこちらから聞こえてくる。

着いた頃には丁度、転校生が紹介されようとしており、
ざわざわとしていた生徒が一瞬にして校長に目を向ける。

「………えー、諸君。聞いているかもしれないが、今日から一緒に学び切磋琢磨をする新しい仲間を紹介しよう。」

「東間透(あずま とおる)くんだ。東間くん何か一言あるかね?」

わぁ!という歓声が所々から聞こえる。

 それもそのはずだ、その東間くんはスラッとした長身に、蒼っぽい黒の髪。制服はキッチリ着ているはずなのになぜか、着崩しているようなそんなオシャレ?な雰囲気を漂わせ、誰が見ても十人中十人は綺麗だと言うだろう。

 八重さんに負けず劣らずの美貌かもしれない……。

「うわぁ………今日は綺麗な人とよく会うなぁ………八重さんもそうだし………東間くんも………。目の保養だ。」

 ボソッと呟きステージの方を見ると、バチっと東間くんと目があったような気がする。

 フッと微笑みを向けられ思わずドキッとした。そんな風に声に出して考えていると、いつのまにか彼はマイクの前まで来ていた。一呼吸おいて、彼は喋りだす。

「えーっと。初めまして東間です。その、北町と東町の間らへんで家が漢方屋やってます。良かったらどうぞ来て下さい。その、これからきつねや漢方って言うんで、俺ともども

よろしくお願いします。」

 その声は凜としていて、聞いていて安心するような心地で、すうっと私の胸の中に入った。
 ペコッとお辞儀する彼。私のボーっとしている思考回路が思い出す。迎えに行くんだった。あんな凄い人を。
 でも彼の、ちゃっかり全校に宣伝できる度胸もすごいし、北町と東町の間って事は多分、あの漢方屋さんの事だろうし、きっと、きっと、八重さんの身内だという事だ。

(なるほど……八重さんの身内だからこんなにも綺麗なのか………)
 
なんとなく、腑に落ちて、そんなこんなを考えているうちに、そろそろ集会が終わる時間だ。終わったら大混雑するだろうから、壁際まで行こう。

 そして、彼を迎えに行こう。やっぱり今日は良い日だなぁ………

「急がなくちゃね!あんな綺麗な人と仲良くなれるかな??やっぱいい事ありそう!」














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