うそつきラブレター
彼が校門のほうへ歩き出したので、私はその背中を追う。


「でもさ……俺、思うんだ」


明るい笑顔で初夏の空を見上げながら、彼が言った。


「俺たちは、どっちも嘘つきだったけど」

「……うん」

「でも、手紙のなかには、真実があったんだよな」


隣に並んで彼を見上げると、柔らかい微笑みに包まれた。


「俺は、手紙のなかの君の優しさとか繊細さとかを好きになったんだ。それって、君の心がそのまま現れたものだろ? だから、俺は君の心そのものを好きになったんだよ」


私は大きくうなずき、「私も」と答えた。


「顔も声も知らなくても、あなたのこと好きになったの。丁寧な字とか、優しい言葉とか、素敵な贈り物といっしょに手紙をくれるところとか、そういうところを好きになったの」


彼は照れたように「ありがとう」と言った。


「じゃあ、俺たち、両想いってことか」


その言葉が妙に気恥ずかしくて、すこし俯く。

すると彼は笑って、「こっち向いてよ」と言った。


「まずは、お互いの名前から教え合おうか」

「あ……そっか」


名前も知らずにお互いに好きになったのだと思うとおかしくて、私は笑った。

彼も笑った。


二人ぶんの笑い声が、空へと弾けていく。


「一緒に……帰ろうか」

「うん」


照れたような彼の言葉に、私は大きく頷く。

こんな幸せが自分に訪れるなんて、ついさっきまでは思いも寄らなかった。

こんな不思議なことってあるんだ。


手紙がつなげてくれた縁だと思った。

嘘から始まった手紙だったけれど、その中には真実だけが詰まっていた。

そして、きっと出会わなかったはずの私たちが出会った。


家に帰ったら、ちゃんとお礼を言おう。

私たちをつなげてくれた手紙たちに。

私たちに幸せをくれた手紙たちに。


< 21 / 21 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:949

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく

総文字数/169,361

恋愛(純愛)300ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
どこにいても息苦しくて 世界は暗い灰色で そんなとき、君の絵に出会った 「俺はお前が嫌いだ」 「お前を見てると苛々する」 冷たくて残酷な君だけど 「俺は天才だからな」 その手が描く色鮮やかな世界は あまりにも綺麗で あまりにも優しくて 「今からお前に世界の全てを見せてやる」 君が私の世界を変えてくれた 「もうお前とは会わない」 それなのに、どうして 私から離れていくの?
だから私は、明日のきみを描く
[原題]だから、きみを描く

総文字数/71,249

恋愛(純愛)140ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
その瞬間、恋に落ちた。 次の瞬間、失恋した。 この恋は、やめなきゃ。 この想いは、消さなきゃ。 彼女を悲しませたくないから、 あの笑顔を守りたいから。 それでも、どうしようもなく、 きみが好き。 だから、私はきみを描く。 きみへの『好き』を消すために―― * 〈望月 遠子〉 大切な親友の遥と同じ人を好きになる 〈広瀬 遥〉 遠子の親友で、彼方に恋をしている 〈羽鳥 彼方〉 棒高跳びで全国を目指し練習に励む * レビュー御礼 竹久祐さま/氷月あや様/aonaさま 花野美桜さま/湖ヅキ様/黒乃輝光さま 小粋優心さま/森井あさと様/和泉りん様 リンク作品 『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』 2017年12月 りぼん冬の大増刊号で漫画化 2018年1月 単行本発売
まだ見ぬ春も、君のとなりで笑っていたい
[原題]それでも君はわたしの光

総文字数/126,518

恋愛(純愛)200ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
恋も、友情も 親との関係も、将来のことも なにもかもうまくいかない 悲しくて、悔しくて、苦しくて どうしようもなくて ひとり泣いていた私のもとに 舞い降りたのは 春の陽射しのように優しい歌声と 天使のような男の子 言葉にならない傷を抱えて それでも私たちは生きていく まだ見ぬ春も 君のとなりで笑ってたいから * 『だから私は、明日のきみを描く』の スピンオフ作品。遠子の親友・遥の物語

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop