千日紅の咲く庭で
抱きしめられた瞬間は、息が止まる程に驚いた私だったけれど、私の涙が簡単に止まるはずもなく、私は岳の胸の中で嗚咽が漏れるほどに泣いた。

そんな私の背中を岳はトントンとゆっくり規則正しくさすってくれる。



岳の骨ばった指先から暖かな熱が伝わってくる。

「泣きたい時は泣けばいい。無理して笑うな」


岳に耳元で囁かれた言葉に、私の涙は止まりそうにもない。



「岳…、私会いたい。お母さんにもう一回だけでいいから、会いたい。会いたいよ…」

私の叫びにも似た訴えを岳は私を力いっぱい抱きしめて、受け止めてくれた。


その晩、涙が枯れるほど子供のように泣きじゃくる私が落ち着くまで、ずっと岳はだきしめてくれていた。

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