花よ、気高く咲き誇れ









 その夜、私は喜びの雄たけびを上げたかというと、そうではない。


 水谷君と付き合えたら、絶対雄たけびを響かせると思っていたが実際は違った。


 ただ、夢のようでふわふわしていて良くわからない。


 ただ、熱に浮かされたように頭がぼっ~とする。


 実感がない。


 水谷君が私の肩に額を預けた時に感じた、頬に触れた髪のくすぐったさと、付き合って欲しいと言ってくれた時の顔と声。


 それが繰り返し頭の中で再生され私を夢の中へと引きずり込む。


 その夢から現実に戻されたのは隆弘からの電話だ。


 今から行っていいか、と。


 いつもなら勝手に押しかけて来るし、下手したら主がいない部屋に入り浸っているくせに。


 私は、ん、とだけ答え電話を切った。













「……今日のことは俺が悪かったと思ってる」



「ん。で?」



「明日、葵には謝る」



「謝っても水谷君は自分を責め続けるけどね。一度言ったことは取り返しがつかないとはこのことね」



「………………」



「水谷君はあんたに申し訳ないと思ってる。それに優しい人だから同じように接するだろうね」



「そうだろうな。葵は本当に良いやつなんだ。人をバカにしたりなんてするようなやつじゃない」



「そのことに今頃気付くなんてバカ。まぁ、気付かないよりマシだけど」



「葵に惚れる気持ちはわかる。男の俺から見たって格好いいやつだ。な、だけどハナ……」



「私、水谷君と付き合うことになったの。だから、今日で最後にして、こうやって私の部屋に来るの。もちろん、隆弘のところにも行かない」



「…………どういうことだ?」



 強張る表情に私は気付かないふりをして、何気なく返す。






< 53 / 105 >

この作品をシェア

pagetop