魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



ニュースキャスターが梅雨入りだと説明していた。それを適当に聞き流していると、電話が鳴る。テレビを消し、番号を確認すれば、父からだった。


「……はい」

「蓮か」

「はい。……お久しぶりです。お父様」


意図せず体に力が入る。今日は一体、何を言われるのだろうと身構えた。


「桜の帰国が決まった。七月の末に日本へ帰ってくるそうだ」


それは一時の夢から覚めるかのような感覚。
忘れていたわけでは決してない。けれども、どこかでずっと、勝手に引き延ばしていた。

何もかもが、今のまま終われるわけがない。読みかけの本のように、しおりを挟んでそのまま放っておいていいものではない。
終わりは来る。物語には終わりがある。最初から、全て決まっていたことだ。


「挨拶や懇親会など、また忙しくなるだろう。竹倉にも伝えてはおくが、お前も把握しておきなさい」


淡々と、事務作業の如く流れていく父の言葉。半分以上は聞いていなかった。
急に現実世界に引き戻された未来は、みるみるうちに色褪せていく。


「……ああ、それとお前、あれは何だ。芸能人のようなことをして」

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