魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


突然声を張り上げた私に、彼が固まる。その両肩を掴んで、彼の体をこちらにくるりと向けた。


「いいですか、蓮様。あなた自身があなたを貶めてはいけません。詰ってはいけません。どうかあなただけは、あなたを見捨てないで下さい」


内側で生まれた闇は、いつしか体を蝕んでいく。顕著に、確実に。
病気は医師に任せればいい。薬を飲んで、しっかり休んで、寝てしまえばいい。

でも、心だけは。それだけは、自分自身でしか救ってあげられないから。


「もしあなたがそれを投げ出したくなった時は、私が代わりにあなたを守ります。だから、」


だからどうか、自分を殺さないで。


「あなたの味方は絶対にいなくなりません。私がいる限り、ずっと」


彼の瞳を下から掬い上げるように、じっと見つめる。
その目が揺れて、揺れて――ほんの少しだけ、光を拾った。


「あっ……た、大変失礼致しました!」


不躾にも彼の肩を掴み、あまつさえ偉そうに長々と話してしまうだなんて。


「申し訳ございませんでした! 出過ぎた真似を……あの、」


まずい。本当にまずい。今度こそクビかもしれない。
放心状態で私を見上げる蓮様に、めいっぱい頭を下げる。


「本当にすみません! おやすみなさいませ!」


このままお化粧を――だなんて、言っていられる場合ではない。
私が取った選択は逃亡。部屋を飛び出して、扉を背にずるずるとしゃがみ込む。終わった、と沈痛にこめかみを押さえた。

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