マザー症候群

「良かったすね」
 遊も美波の喜ぶ姿を見て、にっこりと笑みがこぼれた。

 二人は龍安寺を後にして、河原町、先斗町をぶらり散策をした。そして、祇園の『かんざし』に戻った。
 美波が着物を返却し、私服に着替え、『かんざし』から出て来た。
 二日間にわたる美波と遊の仮の親子旅が、あっという間に幕となった。
 「楽しかったわね。ありがとう。遊」
 美波が游に握手するために右手を前に差し出した。
 游も手を出して熱い握手。
 「俺も楽しかったっす。部長と、部長と呼びたくねえ。うっううう」
 そう言って、游が目頭を拭った。
 「馬鹿ね。游はいつだって私の可愛い息子よ。また、親子旅しようね」
 美波が游を慰めた。
 「また、したいっす」
 「いい子。いい子ね。じゃ、游。ここでお別れしましよう」
 美波が游に手を振って河原町の方に向かって歩き始めた。
 游は美波の後姿をいつまでも目で追っていた。しかし、美波が振り返る事は無かった。美波は現実に向かって、一歩、一歩、歩き始めていた
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