祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 一度唇が離れ、目を合わせる間もなく再び奪われる。啄ばむような優しいものや、濡れた唇の柔らかい感触を楽しむようにじっくりと長いものまで。ヴィルヘルムの気が済むまで口づけは続けられた。

 いい意味でも、悪い意味でも、リラはずっとこの見た目で判断されてきた。だから、どうか自分が何者であっても、どんな外見をしていても、ちゃんと自分のことを見て欲しい。向き合って欲しい。

 それは、あまりにも贅沢な願いに思えた。だから、まさかのヴィルヘルムの言葉にリラは泣きそうになる。

 リラの頬に手を添えたまま、名残惜しく唇が離された。そして額同士が触れ合う。リラは緊張しながらも重ねられていたヴィルヘルムの唇が動くのをただ見つめた。

「ひけらかすなんて考えたこともない。私は逆だ。実際に難しいことだと分かってはいるが、本当は誰にも見せたくないし、触れさせたくない。こうしてお前に触れるのは、私だけでいいんだ」

 それなのに、お前の見た目はどうしても注目を集めるからな、と続けられリラは率直な感想を心の中ですぐに打ち消した。子どもっぽい、なんてとてもではないが、口には出せない。

 悪魔のよう、と謳われている冷厳な国王陛下がこんなにも素直な独占欲を紡ぐとは誰が想像できるだろうか。想像できなくてもかまわない、こんなヴィルヘルムを知っているのは自分だけでいい。

 リラは強く願った。わがままなのも分不相応なのも分かっている。きっとこの想いが実ることなんて決してない。

 早鐘を打ち出す心臓の音はまるで警鐘のようにも思えた。きっとこんなにも苦しいのはこの気持ちの行く末が見えているからだ。

 きっと、そう。

 心の中に広がっていく暗雲について、リラは必死に言い訳した。
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