祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 ノルデン方伯は、おどおどした挙動をとりながらも、実はかなりの野心家だ。娘を後宮に行かせることも、こちらから提案したことではなく、向こうから持ってきた話だった。

 そこには王家とより近い関係になり、方伯の中でも力をつけたいというのが見え透いていた。そんな思惑を分かってはいるものの、体面上無下にするわけにもいかず、娘のドリスを後宮に置いている。

 しかし、ヴィルヘルムも娘と顔を合わせたのは数回しかない。

「それは、申し訳ない」

「いえいえ。陛下に謝っていただくなど滅相もございません。娘に至らない点があるのでしょう。久々に娘に会いましたが、どうも陛下が足を運んでくださらないと嘆いておりましたゆえ、お節介は百も承知で、親心と言いますか、私が代わりに陛下にお尋ね申そうかと……」

「ドリス嬢は、なにも悪くはない。すべては私の至らなさだ。不快にさせたお詫びに、あとで花と良酒を届けさせよう」

 隣に控えていたクルトに目配せすると、軽く頷いて承知の意を表した。けれども当たり前のことながら、それでノルデン方伯は納得するはずもない。

「贈り物はかまいませぬ。どうか、今一度娘の元に足を運んでいただけませんか?」

「今の仕事が立て込んでいる。それが落ち着けば、考えてみよう」

 さっさと話をまとめて退席しようとするヴィルヘルムにさらにノルデン方伯が続ける。

「それは……裏の仕事でしょうか」
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