祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「気にしなくていい。それに、今更お互いに猫を被る必要もないだろ?」

 その言葉に少しだけ、心がほぐれたのか、ローザがぷいっとむくれた。

「殿下は嘘がお上手すぎます」

「褒め言葉として受け取っておくよ。……さて、それでお前は俺と結婚する気はあるのか?」

「わ、私は、そんな。あの……」

 再び顔を赤くして狼狽えはじめるローザの顔をフェリックスは目を細めて見つめた。

「この言い方は卑怯だったな。後宮に入る必要なんてない。俺が求めるのはお前だけだ」

 ローザはぴたりと体を硬直させた。しかし、耳はしっかりフェリックスの言葉を聞いている。それを分かっているので、フェリックスは言葉を続けた。

「俺は知っての通り、できもよくない。異母弟のフェリオの方がずっと王に向いている。それでもかまわないなら……俺と結婚してくれないか?」

「……私は、王妃になりたいわけではありません。殿下のおそばにいられたら、それで十分です……けれど、本当に私でいいんですか?」

「お前でいいんじゃない、お前がいいんだ」

 その言葉で必死で取り繕っていた虚勢はあっという間に崩れ去る。泣き出しそうなローザの目元に口づけると、惹かれるように唇を重ねた。緊張しながらもローザもそれを受け入れる。

 寝転がったままのプロポーズは、王家の人間としては、とてもではないが考えられない。体裁もなにもない。ただ、ふたりを隠すようにして咲き誇る薔薇たちだけが祝福していた。
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