祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
なんだ、これは!?

 自分の体ではないのかと思うほどだ。それでも体温、皮膚の感触、脈打つ鼓動、そのどれもがダイレクトに伝わってきて、フェリックスは叫びそうになった。側近たちが近づいて、フェリックスを引き離そうにも、どうにもできない。

「やめろっ、やめてくれ」

 意識を飛ばしそうな異母弟の顔にフェリックスはついに叫んだ。けれど、どうすることもできない。

「殿下!」

 バタバタと、複数人が部屋に入っていたのを背中で感じる。そして、なにか冷たいものが自分に浴びせられ、腕の力が緩んだのと同時に、解放されたフィリップはその場に倒れ込み、激しく咳込んだ。

 意識が朦朧とする中、フェリックスがそちらに目をやると、四大方伯の姿がそこにはあった。不安げにこちらを見ているローザと目が合い、そこでフェリックスの意識は途絶えた。真っ暗な闇に一瞬で落ちていく。

「殿下に憑りつきし邪悪なるものよ、姿を見せよ」

 ヴェステン方伯とノルデン方伯が一歩前に踏み出て、意識を失っているフェリックスに近づく。すると、意識を失っていたフェリックスの瞳が開かれた。にんまりと口角をあげて笑うと、ゆっくりと立ち上がる。

「まさか王家だけではなく、方伯たちも祓魔の力を持っているとは。油断したよ」

「なぜ、殿下に憑りついた? そこから今すぐ出るんだ」

 ノルデン方伯が再び、小瓶に入った液体を散布するが、それをフェリックスは華麗にかわす。ヴェステン方伯が十字を切って聖言を唱えようとする前に、フェリックスの口から衝撃的な発言が放たれた。
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