祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 どういう、つもりなんだろうか。

 リラの頭は混乱していた。てっきりひどい扱いを受けるのかと思っていたのに、王はそのつもりはなかったようだ。無意識に唾を飲むと、潤った喉に先ほどの行為が思い出され、リラは身悶えした。

 起こしていた体を再びベッドに倒す。こんな魔女とも言われる得体の知れない女に、あんな事をするなんて、やはり王は怖いものなどないらしい。

 ふうっと大きく息を吐いてから、気を引き締める。王の目的が分からない以上、安心するのはまだ早い。

 とりあえず、今日はひどい扱いを受けなかっただけで、今後は分からない。とにかく体を回復させるのが先だ。体力が落ち、思考も鈍っている。

 そこでリラは、はたと気づいた。王がこの部屋を訪れるまでは、このまま死んでしまいたいと絶望していたのに。

 今の自分は、そんなつもりは毛頭なくなっている。それが、なんだかおかしい。状況はなにも変わっていないのに、結局は王の言う通りになっている。

 不思議な人だ、そうリラは思った。いきなり口移しという暴挙に出ておきながら、それが少なからず自分のことを心配してだったとするなら、ヴィルヘルム王は噂だけに聞く、残虐非道な王ではないのかもしれない。

 体を休めようと身を倒し、固く目を閉じる。痛む傷に顔をしかめながら、それでも少しだけリラの心は前を向けていた。
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