祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 ヴィルヘルムは宣言した通り、あれから毎晩リラの部屋を訪れた。たいした時間を過ごすことはない。今日はどんな日だったのか、不自由はないのか、とお決まりの質問をされるだけで、会話もそんなにはない。

 本当に顔を見せる、という言い方がしっくりくる。

 昨日は、この城に来るまでの経緯を尋ねられ、リラはぽつぽつと手短に答えた。家族のことや、住んでいた村のこと。いつも自分は尋ねられ、答えるばかりだ。

 しょうがない、それが今の自分とヴィルヘルムの関係なのだ。逆らうことは、許されず、自分の意思を彼にぶつけることは、してはならない。

 軽く頭を振って、足に力を入れ直す。壁を伝ってフィーネに支えながらリラは一歩ずつ前を目指していた。その間、フィーネは気晴らしにと言わんばかりに、様々な話をしてくる。

 年は十六でリラよりもひとつ年下だということ。両親共にこの城に仕えていること。最近、大好きだった祖父が亡くなったこと。

 明朗快活なフィーネではあるが、そう話す声には悲しみを伴っていた。リラは自分も幼い頃に両親を亡くしていること、そしてこの城に来る前に唯一の肉親であった祖母を亡くしたことなども話した。

 人は相手の性格以上に、同じような境遇には親近感というものを覚えるらしい。お互いに身の上話をした後、少なくともフィーネは昨日よりもリラに打ち解けた雰囲気を見せた。

「祖父はとても優しくて、本が大好きで、たくさんのことを私に教えてくれました。でも、まさか突然亡くなるなんて。『フィーネが大人になったら見せてあげよう』なんて言っていた本も結局、どこにあるのか分からないままなんて」
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