祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
 ヴィルヘルムが部屋の外に出ると、そこには男たち二人が対照的な顔をしていた。不機嫌そうなクルトと、どこか楽しそうなエルマーだ。先に彼が口を開く。

「随分、長い滞在でしたけど、話は十分にできました?」

「確証は得られた。当初の予定通り、しばらく彼女をここに置く」

「ならば、条件があります」

 含みのあるエルマーの質問を無視すると、すかさず言葉を投げかけてきたのはクルトだ。その表情は幼い子どもが見たら泣き出しそうな迫力がある。元々の造りのせいもあるが。

「条件?」

「後宮に足を運んでいただくか、それなりに花嫁を探す素振りを見せてください」

 またその話か、と口に出さなくても王の表情から簡単に読み取れる。しかしクルトもそんなものは百も承知で続けた。

「彼女のことを一応は口止めしておきます。けれど、そんなのが守られることなく、面白おかしく言う存在も出てきます。いえ、すでにいるでしょう。それは邪推を呼び、あなたへの評価にも繋がる」

「言いたい奴は言わせておけ」

 相手にしないヴィルヘルムに見かね、エルマーが口を挟んだ。

「陛下はそれでかまわないでしょうが、彼女はどうなります? 彼女は気にせずにいられますか? そばに置いておきたいと望むなら、多少の根回しは必要だと思いますが」

 その言葉にわずかに王の顔が歪んだ。そしてしばし三人の間に沈黙が流れる。

「……分かった、善処する」

 その言葉に驚いた顔を見せたのはクルトだった。エルマーの言い分はもっともだが、まさかリラを引き合いに出すだけで、こうも王が素直に言うことをきくことは思ってもみなかったからだ。エルマーが言葉を受け取る。
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