祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「起こしたか?」

「陛下」

 どこか申し訳なさそうに部屋に入ってきたヴィルヘルムに、リラの心は安心感と嬉しさで満たされていく。そして、やはり待ち焦がれていたのだと、はっきりと自覚させられる。

 ヴィルヘルムは、ベッドにゆっくりと近づくと、リラに断わりを入れてから腰掛けた。リラもその隣に躊躇いながらも移動する。

 改めてヴィルヘルムの横顔をリじっと見つめた。薄暗い中でも、はっきりと分かる整った顔立ち、自分とは正反対の黒髪は、夜を封じ込めたようだ。

「お久しぶりです」

 なにを話していいのか分からず、リラは無難に挨拶を述べる。するとヴィルヘルムは顔だけリラの方に向けた。

「私はあまり久しぶりとは感じないな。だが、たしかに起きているお前に会うのは久しぶりか」

 発言の内容がすぐには咀嚼(そしゃく)できず、リラは懸命に頭を回した。そしてひとつの答えにようやくたどり着いたところで、先に王が続ける。その顔はどこか楽しそうだ。

「ここ最近はずっと忙しくてここに来るのも遅かったんだ。だが、その分いいものが見られた」

 予想していた答えが当たっていることを示され、リラはシーツを持ち上げ、顔を隠そうとした。

「き、来てくださっていたなら、起こしてくださいっ」

「そう言うな。あんな顔をされてたら起こす気もなくなる」

 顔に熱が走って頬が染まる。自分は一体、どんな顔をして眠っていたのか。それはとてもではないが聞き返せなかったが、それでも、自分が知らない間にも、こうしてここに足を運んでくれていた事実に嬉しさも感じていた。
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