祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「陛下が詠唱されていたのは、その……」

「あれはラタイン語と呼ばれるものだ。日常ではほとんど使われない。祓魔の呪文はほとんどが、昔から受け継がれてきたラタイン語を使う。本当に憑いているかどうか判断するために、奴らとのやりとりに使ったりな」

「憑いていない場合もあるんですか?」

 リラの質問に王は口角を上げた。そしてリラの頭に、そっと手を乗せる。何気なく触れられただけで胸が締めつけられて、息が詰まりそうになる。

「数え切れないくらいあるさ。病からくる精神的なもの、狂言、自己暗示。だから祓魔を行う場合は念入りに下調べを行う。お前のようにみんながみんな素直で単純なわけじゃない」

「それは、褒められてるんでしょうか、貶されているんでしょうか」

 動揺を悟られぬように、リラはむっとした声で返した。ヴィルヘルムはおかしそうに笑うと、さらに空いていた方の手もリラの髪に伸ばす。両手の指が髪を滑ってゆっくりと頬に添えられた。

 触れられていると意識するだけでリラの心臓は鳴り止まない。おかげで、瞬きすることもできずにヴィルヘルムの顔をじっと見つめた。

「もちろん褒めている。分かりやすい方が飼い主としては有難い」

 吐息を感じるほど近くで告げられ、リラの心は震えた。仄暗くて視界が得る色彩は少ない。それでもヴィルヘルムの瞳の色ははっきりと感じる。

 そっと離れられ、リラは残念なような安堵した気持ちになった。それをなんだか王に悟られてはいけない気がしてしまう。
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