祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「ありがとう、フィーネ」

 リラは俯きがちになりながら小さく零した。それに返事はなかったが、フィーネの後ろ姿からひとりではない、という強い励ましの気持ちが溢れていた。

 数あるバルコニーに行くには、広間に備え付けられている階段を登る必要がある。ひっそりと広間から死角になるように設置されている階段は、簡素でお世辞にも広いとはいえない造りだ。

 上ったところは、高い位置から広間を眺めることができるスペースになっており、そこを過ぎてさらに奥に進む。

 目当ての場所に続く通りは、薄暗く光があまり入ってこない。すぐ近くで何人もの城の者たちが慌ただしくしているとは思えず寂寥としていた。

 しかし、この広間での喧騒を抜けて、こっそりと男女で愛の語らいをするのには、これぐらいがいいのかもしれない。

「リラさま、こちらです」

 ようやく光が差し込んでいるのはアーチ型の大きな窓からだ。そこが扉になっているようで、しばらくは開くことがなかったのだろう。錆ついていたからか、擦れるような軋む音と共に冷たい空気がリラの肌を刺した。

 フィーネをここで待つように告げ、バルコニーに緊張しながらも、足を踏み入れる。そして目の前に広がる光景にリラは思わず感嘆の声が漏れた。

「わぁ」

 そこは、フィーネの話していた通り、バルコニーと呼ぶには勿体ないほどの十分な広さがある。リラはここにきた目的も忘れて、奥の手すりへ駆けると、思わず身を乗り出した。

 手入れを頻繁にしていないからか、元々は真っ白だったであろう手すりも灰色に黒ずみ、苔のようなものもついていた。しかし、今のリラはそんなことも気にならない。
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