高貴なる社長のストレートすぎる恋愛に辟易しています。
「本当にそいつのこと、好きなのか?」

即答できず、口ごもってしまった。

恋人として付き合ってもらっている以上、贅沢なこといっていられない。

ずるいのはわかっている。

気持ちが傾いているのはもちろん藤崎社長だ。

藤崎社長が卑怯な立場だって十分わかっているからこそ、契約の範囲内としての彼女という条件を満たそうとして接してしまう。

「普通好きなら付き合ってるやつのこと、大好きとか、結婚したいとかいうだろ」

「……よくわからないから。わたし、まだきちんとお付き合いしたことがなくて」

「は? なんだよ、それ。早く言えよ」

時頼さんはわたしの言葉にエンジンでもかかったかのように声をたかぶらせる。

「俺だったら今からだって十分に幸せにしてみせる自信がある」

「……恥ずかしいですって。こんなところでいわないで」

時頼さんの声がお店にこだまし、隣の席のカップルもちらちらと顔をこちらに向けながらご飯を食べている。

「た、例えばですよ。わたしが藤崎社長のことを好きになったとしたら、時頼さん、諦めてくれますか?」

わざと冷めさせるようなことをいってみた。

みるみるうちに時頼さんの顔が険しくなる。

「兄貴だったらやめたほうがいい。不幸になるだけだ」

「不幸だなんて」

めずらしく強い口調がでてしまい、思わず口を手で覆った。

「婚約者のことだって……」

「さおりさんのこと?」

「なんでもない。つむぎには関係のない話だ」

時頼さんは飯食ったし、昼休みが終わるから帰るぞ、とぶっきらぼうに席を立ったので、わたしも急いで後に続いて席を立った。
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