あなたに捧げる不機嫌な口付け
え、と即答する。


「別にいりませんけど」


というか、彼氏がどうこうより、早く帰りたい。


さっさと帰らせてくれないだろうか。


……ああ、置いて帰ればいいのか。

遠くなるけど仕方ない。塞がれちゃってる方から帰るのは諦めて、回り道して帰ろう。


すぐさま背を向けて歩き出した私を、諏訪さんはおそろしく真剣に呼び止めた。


「祐里恵」


横に並ばれる。


「待って」

「嫌です」

「待ってって、祐里恵」


すたすた早足で前に進む私、そんな頑として振り返らない私を追いかける諏訪さん。


祐里恵祐里恵と連呼されるのに苛立って、進みは余計に早まった。


「……私のこと、名前で呼ばないでください」

「ごめん、呼ばないから。分かったから。ちょっと待って」


こっちは必死なのに、余裕でついて来る後ろに苛つく。


絶対止まるもんか。


「嫌です」

「だから……っ」


焦った顔を見るに、どうしても彼女とやらになって欲しいらしい。


あれかな、罰ゲームとかで至急調達しないといけないとか。めんどくさいのに捕まっちゃったなあ。


いつまでも後ろをついてこられても迷惑なので、仕方なくこちらが折れた。


溜め息を押し殺して立ち止まる。


急に立ち止まった私に驚きつつ、すぐ近くにいたのに、諏訪さんはきちんと避けてみせた。


……まあまあいいかな。
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