あなたに捧げる不機嫌な口付け
「っ」


ぎしり、不自然に固まる私に、その笑みが濃くなる。


わざとらしくて意地悪な、満足げな微笑みだ。


「ああ、名前?」

「……私、名字しか」

「最初に自己紹介しただろ。途中で名前を聞いたのは一応確認するためだよ」


若干早口で説明されて、はあ、なんて気のない相槌を打った。


「ねえ、祐里恵」

「何ですか……」


連絡先は教えませんよ、と釘を刺す。


えええ、とか文句を垂れつつ完全に名前呼びに切り替えた諏訪さんに、思わず嫌な顔をしてしまった。


……まあ、不可抗力だよね。


「あのさ」

「はい」


諏訪さんは明るい茶髪を夜風にひらめかせて。


「年上の彼氏とか、欲しくない?」


そう、いとも簡単に、言い訳を重ねる私を止めた。
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